公開日 2025年03月05日
市民記者のハルです。
今回は井の頭公園駅(京王井の頭線)近くにある「三鷹市吉村昭書斎」を取材してきました。
訪れたのは2月初旬。北風は冷たいですが、とても気持ちの良い青空です。
井の頭公園駅から線路沿いを歩くこと数分、現代風の真新しい建物と、木造の家屋が見えてきました。
三鷹にゆかりのある作家として太宰治氏がよく挙げられますが、吉村昭氏も三鷹を愛した作家の一人です。
奥様は津村節子氏。津村氏は芥川賞をはじめ数々の賞を受賞した小説家で、そんな大作家どうしのお二人が三鷹の井の頭に居を構えたのは昭和44年、吉村氏が42歳のときでした。
吉村氏が79歳で生涯を閉じるまで、三鷹井の頭の地で『破獄』『冷い夏、熱い夏』『天狗争乱』などの数多くの名作が生まれました。
「こちらの吉村昭書斎は、吉村・津村の作品を紹介する〈交流棟〉と、吉村が執筆活動を行っていた書斎を移築して再現した〈書斎棟〉の2棟で構成されていて、様々な角度から夫婦作家について知ることができる施設になっています。」
と説明をしてくださったのは、学芸員である野呂さん。
本日はどうぞよろしくお願いします。
野呂さんに案内をしていただきつつ、早速交流棟の中へ入ってみることに。
中に入ると、壁一面にずらっと並んだ吉村氏の作品が目に飛び込んできました。
吉村氏の執筆した本はもちろんのこと、奥様の津村氏の作品やお二人に関連する書籍も揃えられていて、これらの本は、実際に手に取って読むことができるそうです。
正直に申し上げますと、ここに取材に行くことになるまで吉村昭についてほとんど何も知らず……お恥ずかしながら氏の本を読んだこともなかったので、交流棟で紹介されている本について、野呂さんに詳しく教えていただくことにしました。
まずはこちら、写真中央の青い表紙の小説『めっちゃ医者 伝』(新潮少年文庫)。
「めっちゃ医者」だなんて面白いタイトルだなあ、と呑気に思っていたら、野呂さんが「めっちゃ」というのは福井地方の方言で、天然痘に罹患した患者の皮ふに残るあばたを指す言葉なのだと教えてくださいました。
意味を知る前と知った後のタイトルの聞き心地の落差に、暫し言葉を失います。面白いなんて思ってゴメンナサイ。
こちらの作品では、江戸末期に実在した医師・笠原良策が種痘の普及に奮闘するなか、「めっちゃ医者」と嘲りを受けながらも奮闘する姿が描かれているのだそうです。
この作品の発表から16年が過ぎ、大人向きに長編小説として書き直されたのが『雪の花』(新潮文庫)。
そしてなんと、こちらの小説を原案とした映画『雪の花ーともに在りてー』(https://movies.shochiku.co.jp/yukinohana/)が1/24~絶賛公開中なのだそう。なんてタイムリーなのでしょう。
皆様も是非お近くの劇場へ足を運んでみてください。
もちろん私も行きます!
大変な速筆家で知られていた吉村氏。
吉村氏の壮絶な生い立ちについて書かれている展示パネルを読みながら、こうして膨大な数の作品と対峙していると、氏の怒涛の人生に思いを馳せずにはいられませんでした。
代表作『戦艦武蔵』『関東大震災』、先ほどの『雪の花』などもそうですが、ほとんどすべての作品が、歴史上の事実に基づいて執筆されているため「ノンフィクション文学」「記録文学」というワードとともに語られることも多い吉村氏。
随筆集も多く出していて、北海道や長崎、宇和島などに取材の旅へ出かける傍ら、滞在したいろいろな地の美味しい料理について語った本や、仕事の合間に居酒屋で飲んだくれたお話などをユーモラスにまとめたエッセイ本なども、こちらの交流棟にたくさん所蔵されています。
ちなみに野呂さんのおすすめは、『蟹の縦ばい』(中公文庫)。
吉村氏の作家としての姿だけでなく、少年時代や戦中・戦後のこと、学生時代のことなどの回想が含まれ、奥様の津村氏との様子も垣間見えるような内容になっているのだそうです。
さて、いよいよ書斎棟へ向かいます。
交流棟の奥の扉を進むと、書斎棟へ続く道には、吉村氏と奥様の津村氏二人の年表が。
どんどんディープな世界に進んでいきます。
書斎棟は、書斎、茶室、展示室に分かれていて、書斎のみ撮影OKとのことでした。
机に置かれた万年筆と原稿、さっき鼻をかんだのかな?と思うようなくしゃっとしたトイレットペーパー、伏せた読みかけの本。
ちょっと席を外しているだけのような、本人が戻ってきそうな雰囲気です。
生前ご本人が「この世で一番安らぐ場所」とおっしゃっていたお気に入りの場所なのだそうです。
蔵書の中に「荒川区」の文字が。
吉村氏は荒川区の日暮里出身で、『彰義隊』などの荒川区を舞台にした作品も執筆されています。
ちなみに、荒川区には「吉村昭記念文学館」があるのだそうで、ここと全く同じ造りの書斎が再現されていて、別の地にもう一つ書斎があるのがなんだか不思議ですね。
展示室では「吉村昭と津村節子のふたり旅」という企画展示が行われていました。
作家としてのふたり、ご夫婦としてのふたりについて掘り下げた内容になっていて、お二人がご自宅前で撮影された写真も大きく飾られていました。
おしどり夫婦として有名だった吉村氏と津村氏。
企画展示に関連する書籍。
お土産に吉村昭氏の書籍も購入できるとのことでしたので、学芸員の野呂さんのおすすめ『星への旅』を購入することにしました。
野呂さん、大変お世話になりありがとうございました!
本の表題になっている、初の太宰治賞受賞作となった「星への旅」を含めて、全6編が収録されています。
野呂さんが「決して明るいお話ばかりではないので…」と、しきりに心配してくださった意味を実際に読んでみてで漸く理解。
そして、読んでから取材するべきだった、とおおいに反省。
交流棟にあった膨大な作品の数々、資料で覆いつくされた書斎。
大病を患い、父母を若くして失い、戦時下の動乱を生き抜き、人間の生と死について問い続けた吉村氏の人生について、しばらく考え込んでしまいました。
執筆活動の日々のなかで、共に励む奥様の津村氏が隣にいてくださったことが、きっととても心強かったんじゃないのかな、と僭越ながらそんなことを思いました。
最後に、吉村昭書斎の入口サインがお洒落でかっこよかったので掲載させていただきます。
これからのあたたかい季節にぜひ一度、皆様も足を運んでください。
三鷹市吉村昭書斎
所在地 | 三鷹市井の頭3-3-17 |
---|---|
電話 |
0422-26-7500 |
営業時間 | 10:00~17:30 |
休館日 | 月曜日、年末年始(12/29~1/4) ※月曜日が休日の場合は開館、休日を除く翌日と翌々日が休館 |
入館料 | 交流棟 無料、書斎棟 100円 ※中学生以下、障害者手帳を持参の方とその介助者、校外学習の高校生以下と引率教諭は無料 ※「東京・ミュージアムぐるっとパス」利用可 |
HP | 三鷹市吉村昭書斎 | 公益財団法人 三鷹市スポーツと文化財団 |